管理職に今求められるリスキリング、必要性と始め方 | 【長野県】キャリアアップステーションNAGANO

コラム
Column

管理職に今求められるリスキリング、必要性と始め方

<株式会社ジェイック 取締役 教育事業部長 近藤浩充さん>

技術革新やビジネスモデルの変化に対応するため、新しい知識やスキルを学び直す「リスキリング」。デジタル人材育成の文脈で使われることの多い言葉ですが、「管理職のリスキリング」にも注目が集まっています。新しい考え方をもつ若い世代のマネジメント、テレワークをはじめとする新しい働き方への対応など、これまで必要のなかったスキルが「管理職」にも求められるようになっているのです。

今管理職に何が求められているのか、どうすれば身につけられるのか。長年にわたって多くの企業の人材育成に携わってきた、株式会社ジェイックの取締役教育事業部長の近藤 浩充氏にお話を伺いました。

 

時代の変化とともに、リーダーに求められる資質も変わった

今管理職に何が求められているのか、教えてください。

何が求められているのかを知るには、今の時代が昔と比べて何が変わったのかを把握する必要があります。まず大きく変わったのは働き方です。コロナ禍をきっかけにリモートワークが当たり前になりました。その結果、コミュニケーションの取り方や相手のことを理解するやり方が大きく変わっています。管理職は、時間と場所を長時間共有することで相互理解を深めるのではなく、時間と場に依存せずとも信頼関係を築き、本音で意見を交わし合える対話力を磨かなければならないのです。

また、企業活動のあり方も大きく変わりました。かつての高度成長時代では、各社それぞれに成功パターンがあり、それをうまく再現し続けることが重要でした。しかし今は、一度うまくいったパターンが、次にうまくいくとは限らず、同じことを続けているだけでは徐々に業績が落ちてしまいます。常に世の中の変化と向き合い、試行錯誤を繰り返す必要があるのです。

管理職は、業務プロセスの管理にフォーカスするのではなく、部下の育成やモチベーション管理にフォーカスをし、個々のメンバーの強みを引き出しながらチーム全体の力を最大化させることが求められています。

リーダーに求められるスキルの変化については、当社が経営層・人事に調査した結果を見ると非常にわかりやすいです。現在の管理職に求められることは、20年前の管理職と比べて、説得より対話のコミュニケーション、トップダウンよりもボトムアップ、管理・統制よりも強みや個性の重視、と変化をしており、管理職に求められる役割は「管理」から「育成とマネジメント」へとシフトしていると言えます。

「対話力」をベースに、成果を出す

新しい時代の管理職へと変化するには、何をリスキリングすればいいのでしょうか。

管理職がリスキリングすべき能力はいくつかあり、そのなかでもとくに重要なのが「対話力」です。

表面的なやり取りをおこなう「会話」ではなく、部下や同僚とお互いに本音で意見を交わし、建設的なフィードバックを送り合う「対話」により、時間や場所に依存しない信頼関係が構築できます。対話力を磨き続けることで「人間関係を強化する」「協力を得る」「リーダーシップを発揮する」と、管理職として望ましい結果を出せるようになります。

一つひとつのステップを上がっていくためには、何が必要なのでしょうか。

それぞれのステップごとに、適切なアプローチを実践し、身につけることが重要です。ジェイックでは、人間関係やコミュニケーションの原則をまとめた、デール・カーネギー氏の名著『人を動かす』に示されている30原則を用いたリーダーシップ&コミュニケーション研修において、具体的なアプローチを発信しています。

信頼関係を構築し、人間関係を強化する段階では、部下や同僚との関係性構築・強化のための基本的な9の原則を実践し、協力を得るには、相手の自発的な協力を引き出す10から21の原則を実践。リーダーシップを発揮する段階では、22から30の原則を実践します。どの原則も、相手のモチベーションを高め、目標に向けて自発的に動けるような環境をつくり出すために、重要なものです。

一見すると、どの原則も当たり前に感じられるかもしれませんが、実践することは難しいです。企業には、育成対象の管理職が日常的に各原則を実践できるよう、トレーニングの機会を設け、アシストすることが求められます。

「目的の明確化」「動機づけ」で効果的なリスキリングを

管理職のリスキリングにおいて、注意すべき点を教えてください。

大きく2つあります。

1つ目は、目的を明確にすることです。リスキリング研修の最終的な目的は、売上や離職率など具体的な指標を変えることにあります。研修の目的が曖昧であると、受講者の行動変化に結びつかず、結果的に、目に見えた成果が出ません。研修をはじめ、施策を実行する際には、具体的な成果目標を明確にし、それに向けて行動の変化を促すことが大切です。

2つ目は、リスキリング対象者の動機づけをしっかりおこなうことです。行動変化の背後にある動機づけがしっかりとされていないと、研修で得たスキルや知識は一時的なものになり、持続的な効果が期待できません。たとえば、ハラスメント防止の研修を実施しても、管理職がその重要性を心から理解していないと、行動はもとに戻りやすいのです。育成対象者に「なぜその行動をするべきか」「なぜそれが重要なのか」を深く理解してもらう必要があります。

管理職のリスキリングにおいて、発表可能な成功事例があれば教えてください。

わかりやすい例として、ある建築会社における管理職リスキリング研修の取り組みをご紹介します。この会社では、とくに若手社員の離職率が高く、入社してもすぐに辞めてしまうという課題がありました。そこで、管理職の方々に対して研修を実施したのです。

研修対象者の一人の、ある部長は、「最近の若い人は根性がない」「少し失敗したくらいで辞めてしまう」という考え方をもっていました。そのような考え方のままでは、部下との信頼関係構築は難しく、離職率の改善もできないでしょう。

そこで研修では、部下とのコミュニケーションを振り返って、「1週間で何人の部下と話し、彼らのことをどれくらい理解しているか」「何回褒め、何回指摘したか」といった質問を通して、自分自身の行動を振り返るとこらからスタート。これにより、その部長には、部下をほとんど褒めておらず、同じ指摘を繰り返していることに気づいてもらうことができました。

そのうえで、全8回の研修の中で、毎回、部下との関係性を深めるための宿題を課しました。「1週間で10分間、部下と具体的な話題について話し、褒めること」「自分の価値観や経験談を部下に語ること」「相手のミスに対して決して否定せず、対話を通じて改善点を話し合うこと」などです。

すると、3回目の研修後、かつてその部長を恐れ、辞表の提出までしていた男性社員が「最近、部長が自分のことを理解してくれる」と感じ、辞表を撤回するできごとが起こりました。この出来事を通じて部長自身も、マネジメントスキルの大きな変化を実感し、さらに部下と良好な関係を築こうとするモチベーションアップにもつながったのです。

結果として、この会社では離職率が大幅に改善されました。さらに、自発的に考えて行動する社員が増えたことで、若手社員の昇進率も向上し、育成面でも成果が出始めています。

世界で通用するマネージャーを目指して

最後に、変わりたいと思っている管理職の方へアドバイスをお願いします。

まず、一歩目を踏み出す際に大切なのは、自分のコンフォートゾーンから抜け出すことです。たしかに、長年続けてきた自分なりのコミュニケーションスタイルを変えるのは非常に大変です。しかし、コミュニケーションのほんの少しの変化が、相手に対する印象やインパクトを大きく変え、業績にポジティブな影響を与えるのです。結果が出るまでにはある程度時間がかかりますが、それを覚悟したうえで、小さくてもいいので挑戦を始め、続けてもらえればと思います。

日本の管理職は、すでにプロセス管理や成功パターンの構築に長けています。それに加えて、対話力を磨き、部下のモチベーションを高めながら育成できるスキルを身につければ、世界で通用する強いマネージャーへと成長できるでしょう。

繰り返しですが、このままではダメだと感じている日本の管理職の方々にはまず、新しいマネジメントスタイルに挑戦してほしいです。その結果、成果につながることはもちろん、挑戦し続ける姿勢そのものが、組織に大きな変化をもたらすでしょう。

 

 

近藤 浩充

株式会社ジェイック 取締役 教育事業部長

〈プロフィール〉
大学卒業後、情報システム系の会社を経て入社。IT戦略事業、全社経営戦略、教育事業、採用・就職支援事業の責任者を経て現職。企業の採用・育成課題を知る立場から、当社の企業向け教育研修を監修するほか、一般企業、金融機関、経営者クラブなどで、若手から管理職層までの社員育成の手法やキャリア形成等についての講演を行っている。昨今では管理職のリーダーシップやコミュニケーションスキルをテーマに、雑誌『プレジデント』(2023年)、J-CASTニュース(2024年)、ほか人事メディアからの取材も多数実績あり。

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